=都内の車窓から=No.468524

急変する荒天が慢性化し、隕石により大きな被害を受け、地上に生きるものは微生物程度になってしまった、人の住む星。
D&C社の企業都市はそんな星にあります。

正しくは、世界衛星会議承認第5052号 株式会社D&C製薬地下共同体。

元々は福祉設備を併設した社員寮でした。
世界的に天候が悪化するにつれて、長期的に独立して生活できる地下都市へと変貌していき、会社自体をも内包していきながら、8世紀を経て現在の巨大な姿になりました。

現在の地表からは点在する堅牢な数個のゲートと、残土の処理場などを確認することができます。
比較的風の弱い日には、処理場などで防護服を着こんだ人が作業をしている姿も見られます。

D&C社の公式発表によると地下部分の規模は面積にしておよそ350ha、縦方向の深さは約1.4Kmとされています。
これらは1つの空間ではなく、内部は何層にも分かれていますので、総床面積は広大なものと推定されます。
現在も少しずつ拡張を進めており、場所によっては蟻の巣のように複雑な構造になっているので、正確な広さを出すのは困難です。

全体を把握するのが難しい理由の1つに、詳細な全体図が公開されていないという点もあげられます。

都市機能の維持に必要な設備がある場所などは、保安上の理由で一般には伏せられています。
ただしこれは表向きの話で、資料室にて建設当初からの広報紙などを調べれば、おおまかな内部構造を把握することはできます。

この共同体のおおよそ中央に、ゆるやかなS字型の広い空間があり、最大級の公園として一般に開放されています。
約180年前に、老朽化した住宅区域を整理して作られました。

ここには勤務中に亡くなった方々の慰霊碑があり、それを建てた際に、リンドマン戦役で伝説的な活躍をした医療班長の名を冠して「ロトレフ平和祈念公園」と改名されました。
が、あまり定着せず、一般には「セントラルパーク」と呼ばれています。

約50階層を吹き抜け構造にしたといわれるこの空間は、天井がたいへん高く、すでに地上では見られなくなってしまった低木や草花が植えられ、適度に調節された陽光ライトが24時間周期で昼と夜を演出しています。
一般の居住区域は主にこの公園を中心に広がっており、憩いの場として多くの住人が利用しています。
公園に面した住宅では窓辺で植物を育てることが奨励されており、公園を一望できるパークエレベータからの眺めは、他では見る事ができない絶景です。

しかし、パークエレベータで行ける階よりももっと上、この公園に面した上層階は、この街に多々ある立ち入り禁止区域の1つになっています。
大型の排気口は確認できますが、空調施設だけで約10階層分を必要とするはずもないため、最近では「都内七不思議」の1つに数えられています。

公園に面した低層には配給場や商業施設もありますが、一般商店の客足は少なめです。
平社員の給与は配給ポイントが大半を占めており、自由なお金は額面が少ないので、嗜好品の購入はなかなかできないのが現状です。

この公園に集まる人々は、この街の地理を大雑把に
「下の方は治安が悪い、横の果ては工事中、上は高級、もっと上は廃墟と刑務所、一番上は天獄の門」
と認識しています。

次回は、セキュリティレベルの高い区域へおじゃまします。

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