『都内の車窓から』を続ける根性がないので:前編

かわりに37回の日記の一部を先行公開してみるテスト。内容的には軽く続いてるけど視点変更、みたいな。

——
『world fabrication、あるいは宝積寺敦士の日記』

今日は外仕事。といっても地上ではなく『隔壁の外』という意味で。
新設されるE’区域のシェルター拡張工事の現場で、鉱物サンプル採取。
久々に広い空間を見た。
光源が足りないと、こんなにも暗いものだったのか、と思った。

工事現場にWSTVの取材が来ていた。
一向に好転しない外交情勢の打開のために、積極的に情報公開していこうという上の方針なのだろうか?とも思ったが、
取材バスがGランクだったのでそれは無いということが判った。

課長はこっちへの取材も応じてたが、食料プラント等の当たり障りの無い内容だけで終わらせたようである。
当然、先日偵察衛星に捕捉されて衛星会議で話題を独占している地上緑化プロジェクトについても質問してきたが、課長は
「担当は自分たちではないので詳細はわかりません」
と、大嘘ついてスルーしていた。
当然の対応。

デスクに戻って日報を書こうとしたら、私の席に突っ伏して寝ている奴がいた。

その私服に見覚えはなかったが、後ろ頭だけで誰なのか解った。
即、ファイルケースでたたき起こした。

同期のバルド。
元々は保安部員だったが、特殊能力を買われて製品開発部に転属したというおかしな経歴の男。
現在は私の故郷にあるラボに飛ばされているのだが、珍しく帰ってきたようだ。

バルドをどかしつつ用件を問うと
「呑みに行こう」
スルーした。
「息子さんから手紙預かってきましたけど〜?」
スルーできなかった。

明日も仕事だし金欠なので軽く、という約束でバルドの行きつけの店とやらへ向かうことに。
私服に着替え、ロックを外してセキュリティ区画から出ると、活気も色もない路地と愛想のない天井が続く。
ぼんやりとどこか遠くから(たぶん駅前から)、覇気の薄い人権活動家の演説とまばらな拍手が、何十にも反射しながら聞こえてくる。
どれも、いつものことだ。相変わらず。

バルドは駅近くの安酒屋で、かなりの量のフリークーポンを使って、個室を取ろうとした。
他に客が多いわけでもないし、私は止めさせようとしたが
「支給されるのはいいが、滅多に帰れないんでかなり貯まってる。帰った時にはパーっと使うことにしてるんで気にしないでくれ」

同期とはいえ年下に奢ってもらうのは気が引けるが、本気で手持ちの少なかった俺は従うことにした。

迅士の手紙とやらは気になるが、どうもなかなか出そうとしない。
「待ってる家族がいるとか、いいっすよねぇ〜」
などと、ラムコークをちびちびやりながらのらりくらりとしている。

「お前だってちょいと前に扶養家族拾ってきただろが。あんまり無駄遣いしないほうがいいんじゃないか?」
「ダニーは今んとこは寮生活だしな。確かに、俺には負担が少ないんで助かってる」
コピーワイン(間違いなく安物)を、息を止めつつ一気に空けてから、軽く説教してみる。
「いいかげん長期的な将来のこととか考えたほうがいいぞ?…そんなに一家団欒とか生涯の伴侶とかが欲しかったら、とっととドナでも口説けよ。お前とドナって出身地が同じなんだから、気が合ったりするんじゃないのか?」
何故か、バルドは驚いた顔をした。

「…1つ訊く手間が省けた、オッケー」

何の話だかさっぱり判らん、と問い詰めたが、パスタの大皿が届いたので一旦話は途切れた。
ウェイトレスが去り、味の薄いトマトのパスタを取り分けながら、先にバルドに口を開かれてしまった。

「ところで、そっちのプロジェクトの調子はどうよ?」

表情から察するに、本題はこれのようだ。

【続きは37回更新後】

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